数日前に春を迎えたばかり。

といってもそれは暦の上でのことで、まだまだ厚手のニットが恋しい。
けれどこの南の地では桜の花が既に今を盛りと綻ばせている。
そんなとある日の昼下がり、午後のお茶の時間にはハジ特製のミルクティで体を温めた。
そして出かけたいつものお散歩。

「大丈夫ですか、小夜?足元には気をつけて下さいね。」
「だいじょうだよ、ハジ。ハジはホントに心配性だね。」
夕焼けに染まる海を見ながら、砂に足を取られ、おぼつかない足取りの小夜。
ハジの言葉は身重の妻を思いやってのものだった。
「そんなことを言いますが、すぐに躓いたりぶつかったり、私をこんなにハラハラさせるのは、いったいどこのどなたですか?」
「…ハジの意地悪。でも心配してくれてありがとう。」
恥じらうようなしぐさが、愛おしい。
「お礼を言われるほどのことではないのですが…。何より貴女は大切な身体。私にできることはこのくらいのことしかありませんし…。風が出てきましたね、体を冷やしてはいけませんから、そろそろ戻りましょうか?」
現在妊娠6か月。
酷い悪阻からもようやく解放され、少しだけ前へとせり出したお腹が誇らしくもあり、気恥ずかしくもあり、何より幸せの証だった。
ある1点を除いては…。
この後とんだ騒ぎを起こすことも知らないで、少しだけ主張を始めた丸いお腹に、そっと手を当てながら小夜は頷いた。
「うん…。」
言い終わると同時、自分の両の手をすーっとハジに向けて差し出し、見上げる高さにある青い瞳をじっと見つめた。それは、おねだりの合図。
ハジはフゥっと小さく息を吐くと、小さな身体を優しく包んだ。
「もうすぐお母さんになるというのに、小夜は甘えん坊さんですね。」
咎めるはずの言葉なのに、それを全く感じさせないのは、溢れんばかりの愛しさが込められているから。
「いいの、ハジにしか甘えたりしないもん。…それとも甘えられるの、迷惑?」
むくれる小夜の表情は、本人には全く自覚はないものが、ハジにとっては殺人的なかわいらしさ。
―今、ここで華奢な身体を想いの限り抱きしめ唇を奪ったら、小夜はどんなふうに応えてくれるだろうか…。
一瞬にしてハジの頭の中はあらぬ妄想で占拠されそうになるが、鋼ともいえる理性を駆使して努めて冷静さを取り戻す。
「迷惑なわけがないでしょう。貴女のためならどんなことも厭わない。どんな願いでも叶えてあげたいのです。知っているでしょう、私が貴女のことをどれほど愛しているのか…。もっと私に甘えて、もっとわがままを言って下さっても構わないのですよ、小夜。」
いつものハジらしからぬ乞うような訴えに、小夜は心のざわめきを隠せない。
小夜が目覚めてからのハジは、どこか悪戯な少年の横顔をのぞかせることが度々あって、小夜はあの動物園の頃のハジを自然と思い出すことがあった。
そんなハジが時折見せる切ない眼差しは、ずいぶん長い歳月共に過ごしてきた小夜から見ても、悩ましい男の色気があって美しいの一言に尽きる。
― ハジ、そんな顔、絶対に他の誰にも見せないで…。あなたは私だけのもの…。
一度も口にしたことがない、自らの心の中の醜い独占欲の存在を知るたび、小夜は言いようのない不安に陥ってしまう。
― こんな私、ハジに嫌われてしまう。
ハジのことだから小夜の心の文までも容易く感じ取ったのだろう。
気づけば長い腕にすっぽりと小さな身体は不安な心ごと包まれていた。
まるで、「あなたが不安に思うことなど何もないのですよ。」と言ってくれているようで、その広い胸の温かさについさっきまで感じていた不安など跡形もなく溶けてなくなっていく。
片頬を温かな胸に預けるとちょうど耳の当たる場所にハジの鼓動が聞こえる。
心なしかいつもよりも早い気がする。
― お願い、キスして。
心の中ではこんなにもはっきり言えるのに、心も身体もすべて余すところなくハジに愛され、子供まで授かった仲だというのに、何を今さら恥ずかしがることがあるのか…と自分でも思う。でも…言えない。
―お願い!気づいて。
ゆっくりと瞼を下ろす。
背中にまわされていた腕がするりと解かれた。
やがて唇をなぞる優しい指先。
そのまま顎に滑らせたと思ったその刹那、ぐいっと持ち上げられ、漸く待ち焦がれた感触が唇に伝わる。
少しだけ冷たい湿ったハジの唇。
大好きな大好きなハジの優しいキス。
触れるだけで去っていこうとする彼を押しとどめるように、口を割ってそっと舌を差し入れる。
しばらく小夜にされるがままになっていたハジが、小夜の想いに応えるように優しく舌を絡め合わせてきた。
― 良かった。ハジ、ちゃんと応えてくれた。
小夜が今一番恐れていることは、ハジに拒絶されること。
ハジがいなくなったら、独りきりの寂しさに気がふれてしまうだろう。
何もかも包んでくれるこの優しさに溺れてしまった今となっては、闘いの日々にあった強がりなどまるで幻のよう。
絡め合わせた舌の少しざらついた感触。時折喉の奥に流れ込む生暖かい滴。
― ハジの全てが愛しい。私はこんなにも、ハジを愛している。だから…。
そっと離れていく唇の間に、細い糸が生まれた。
今日なら、今なら…、ハジは願いを聞き届けてくれるだろうか?
あなたが欲しいと言ったなら、身を焦がすほどに熱く抱いてくれるだろうか?
「ねぇ、ハジ。」
「なんですか、小夜?」
「あの…ね…。あのね、今夜…。抱いてほしいの…。だって…、もう…、ずっとご無沙汰なんだもん。」
小夜はその頬と言わず耳から首までを、収穫の時を今かと待ち焦がれる完熟のトマトよりも真っ赤に染めて、それでも恥ずかしさに耐えるようにじっとハジを見つめていた。
まるで、はぐらかすことなど許さないとばかりの睨みつけているような鋭い視線だ。
そう、ハジは小夜の妊娠がわかってからというもの、全くと言っていいほど小夜を求めてこなくなった。
同時にキスもただ触れるだけの優しいものへと変わっていった。
ハジにしてみれば、深い口づけで小夜の熱、いや自らの熱を煽ってしまったら、自分を抑える自信がなかったから、敢えて避けていたのだけれど。
…けれど小夜からしてみれば、蕩けるほどに甘く情熱的なキスをことあるごとに受けていたのだから、そんな馴れ合いにも似た触れ合いなど物足りないことこの上ない。
小夜が気付いているだけでも、ハジの変化は…他にも色々あった。
そのどれもが女性ならば誰もが大喜びするようなことで、とにかく今まで以上に優しくなった。
それはもう過保護といっても言い過ぎではない。
今まで二人でしていた料理も、掃除も、洗濯も、買い物も、
「体に障るといけないですから」と言って、
本当に何一つさせてくれなくなった。
初めのころは思いのほか悪阻が酷かったこともあって、そんなハジの心遣いが嬉しかったのは事実だが、
悪阻が治まった今となっては、寂しい…の一言に尽きてしまう。
そして、交わりのない夜。挙句の果て。
― 私、本当にハジに愛されているのかな?
普段なら思いもつかないそんな疑問まで脳裏によぎり、あらぬ方向にばかり思考が傾いてしまう始末。
ハジは、日毎に沈んでいくそんな小夜を見かねて、久方ぶりに海に連れ出したのだが。
それがどういう風の吹きまわしか裏目に出てしまい、
小夜から「抱いてほしい」の台詞を聞く羽目になるだなんて。
ハジは、眩暈を感じずにいられなかった。
小夜を求めなくなったのは、ほかならぬ身重の小夜を思いやってのことだった。
未だによく分かっていない翼手の生態。その上での妊娠。
この先どんなことが起こるのか誰一人として知る者はいないのだ。
常に最悪の事態の想定し、慎重にならざるを得なかった。
それでも愛しさのあまり、腕の中で眠る小夜を襲いそうになったことは、一度や二度のことではない。
― 私だって、我慢しているんですよ。
…それにしても、上目使いに迫ってくる小夜は、何と艶やかで何と美しいのだろう。
欲望のままに貴女を愛せたらどれほど幸せなことか。しかし…。
「しかし、小夜。無理をして、お腹の子に何かあっては…。」
それは、自分を言い聞かせているのと同じだった。
小夜がこれで諦めてくれたら…。
しかし、淡い期待は見事なまでに打ち崩された。
「さっきは、どんな願いもかなえてあげたいって言ってくれたじゃない。もっと甘えてって、もっとわがまま言ってって、言ってくれたよね。あれは嘘だったの?ハジは…、ハジは…、ハジは私のこと、もう愛してないの?」
小夜は泣き出していた。
まるで子供のように、わぁわぁと声をあげ、瞳から大粒の涙をいくつも零し。
こんな小夜を宥めるのがどれほど大変なことか、ハジは厭なほど分かりすぎている。
思わず頭を抱えて逃げ出したい衝動に駆られるが、ハジが小夜を放っておけるわけなど、あるはずもない。
「小夜、何を馬鹿なことを言っているんですか?貴女を愛さない私など、この世に存在しません。何度も言っているではありませんか。私が愛しているのは貴女だけ。貴女が私のすべて。だからこそ、こうして私も我慢しているのですよ。お腹の子が無事生まれてくるまではと…。」
言った瞬間、「しまった。」と思った。
口走ってしまった、本音。
知られてしまってはもう抑える自信などミジンコほどもない。
あの潤んだ瞳で、縋るように迫られたら…。
それでも…。
小夜を愛しいと思う心が嘘偽りない真実であるように、今はまだ見ぬわが子への思いも真実。
無事に生まれてきてほしい…。
「いや。私、そんなに待てない。どうして我慢なんてするの?こんなにハジが好きなのに。私…、ハジに愛してもらえないなら、赤ちゃんなんていらない!いらないよぉ!!」
小夜は先刻よりも激しい感情を露に、大きな声を張り上げて砂浜を駆け出していた。
もし転んでお腹を打ったら…、胎児だけでなく小夜の命までも危うくする。
「い、いけない!走ってはダメです、小夜ッ!!」
咄嗟に追いかけようとしたハジも、砂に足を取られ体勢を崩す。
それでもなんとか持ち直して、小さな背中を追いかけていく。
小夜はハジの前方をわき目も振らず走っていた。
少しだけせり出したお腹が重い。
― こんなお腹でなかったら、ハジはいっぱい愛してくれるのに…。
その時だった。小夜の腹の中で、弾けるように何かが動いた。
思わず足を止めて、自分の腹部に全ての感覚を集中させてみる。
しばらくして、またポンッと小さく…でもそれは確実に動き、その存在を小夜に知らせた。
「ハジ!!」
無意識のうちに後方で自分を追ってきているその人に振り向き、名を呼んでいた。
「小夜、どうかしたのですか?何か良くないことでも!?」
俄かに顔色を変えたハジが、周囲の目を憚ることなく、小夜のもとに文字通り飛んできた。
「ううん、違うの。今、ね。お腹の中でね、赤ちゃんが動いたの。ここで生きてるよって、私に教えてくれたの。こんなにはっきり感じたの、初めてなの。」
「小夜…。」
「…私、とってもひどい事言ってしまった…。赤ちゃん、いらないだなんて。ひどい…お母さんだよね。赤ちゃん、お腹の中で頑張って生きているのに。…ごめんね。ごめんね。私…、ハジがとても大切にしてくれるの、当たり前のように思ってた。そう思って甘えてた。ごめんなさい。ハジ…、ごめんなさい。」
丸い腹を抱えるように蹲ってしまった小夜の背を、労わりように優しく何度も撫でる。
「小夜、貴女は何も悪くなどありません。貴女のことを想っているつもりが、知らず知らずとはいえ貴女に寂しい思いをさせてしまった。こんな私を赦してくれるのなら、…お願いです。どうかお腹の子を、私の子を産んでいただけませんか?貴女の中に宿った奇跡を、この目で確かめたいのです。」
「ハジ…、私、産みたい。さっきの言葉を赤ちゃんとハジが赦してくれるなら、産みたい。だから、生まれてくるまでは…、さびしいけど我慢する。」
「小夜、そのことなのですが…、あのぉ、一度ジュリアに、相談してみませんか?その…、話しにくいことではありますが…、でもジュリアならば、医師として的確にアドバイスしていただけるのではないかと思うのですが…、もちろん小夜がいやというのであれば、やめておきますが。」
「…う、うん。ジュリアさんに、聞いてみる。赤ちゃんが動いたってことも報告したいし…。今から急に行っても迷惑じゃないないかな?」
「おそらく、大丈夫でしょう。善は急げと言いますし、今から訪ねてみましょう。」
人騒がせというかなんと言うか、いや今のところは被害者はいないからいいのかもしれないけれど、
さっきまでの雰囲気とは全く違う、LOVE LOVE モード全開で、ジュリアの元へと急ぐ二人。

今回の被害者は、ジュリアに決定である。



ジュリアは、突然訪れたにも拘らず二人を厭な顔一つせず温かく迎えてくれた。
その上、小夜から嬉しい土産話、胎動のことを聞かされた時には、
その美しい顔を綻ばせて我がことのように喜んでくれた。
小夜には、母というものの記憶を持っていなかったけれど、今ではジュリアが母のような存在だった。
ハジの与えてくれる優しさとは違う慈愛に満ち落ち着いた優しさに、
母というものはこんなものだろうかと、ジュリアに接するたび思う。
穏やかな談笑が続くと思われた刹那、唐突にハジが例の話を切り出した。
「あの、実は今日突然にお伺いしたのにはわけがありまして。大変お恥ずかしい話なのですが…。」
ハジがここまで言うと、小夜は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それでもハジの手を握るのを忘れてはいなかった。
「小夜の妊娠が分かってから、私は小夜との性交を控えてきました。もちろん小夜の事を愛せなくなったからではなく、小夜の身体を思いやってのことなのですが、もうこれ以上小夜に寂しい夜を味あわせたくはありません。でも、お腹の子に何かあってはと思うと、不安でたまらないのです。こういった時人間たちはどうしているのか、教えて頂けませんか?本来、人間と比べること自体が的外れなのかもしれませんが…。」
始めハジの話を唖然、茫然、呆然とした表情で聞いていたジュリアだったが、
ハジが言い終えたその瞬間、その瞳は医師へのものへと変わっていた。
小夜の手をそっと優しく取って、
「ハジにこんなにも愛されて、貴女はホントに幸せ者ね。」
ジュリアはそう言葉を切り出して、続けて言った。
「小夜。そんなに顔を真っ赤にして恥ずかしがることじゃないわ。愛する人に抱かれたいと思うのは至極当然なことよ。ハジも、小夜を想うその心のまま、抱いてあげたらいいのよ。無理に我慢したって心に歪みが生まれるだけで、あなたたちの夫婦仲だけじゃなくて、おなかの赤ちゃんにも悪影響が出るわ。そうね、もう繭もずいぶんと固くなってきているようだし、お腹を圧迫するような体位を避ければ大丈夫だと思うわ。でもあまりにも激しい行為は避けて。あなたたちがどれほど愛し合っているかを、おなかの赤ちゃんにもぜひ教えてあげて。きっと赤ちゃんも応えてくれるわよ。」
ゆっくりと諭すようなジュリアの声に、羞恥心が消えていく。
「…ジュリアさん。」
「確かに、人間と翼手。その生態には大きな違いがあって、30年以上翼手の研究に携わってきた私でさえも分らないことのほうが多いわ。でも誰かを愛おしく思う気持ちに、翼手も人間と対して変わりないのだということを、私に教えてくれたのはあなたたちなのよ。一番大切なのは、互いを思いやる心なのよ。あなたたちは不器用すぎて、そのためにすれ違うこともあるんでしょうけど、それでも私は信じてるの。あなたたちの愛が、理想であると…。」
母を知らぬ小夜に母という愛を教えるように、ジュリアの笑顔は穏やかで果てしなく優しい。
ジュリアの言葉を聞いていた小夜の瞳から、涙が零れおちていた。
ハジが欲しいと思うこの気持ちが自然なものだと言ってもらえた。
愛する人を求める心に翼手も人間も変わりがないと…。
人間に育てられ、人としての心を持って生きていても、自らの生態を一つ一つ知る度に自分が人間ではないのだと思い知らされる。
それは分かってはいたことであっても、改めてはっきりと知らされることは小夜にはやっぱり辛いことだったから。
ハジを愛する気持ちが、人が人を愛する心と同じ…そう言ってもらえたことが嬉しくて嬉しくて…。
ハジの手を握ったままの手に、無意識に力がこもる。
ハジもまた、ジュリアの言葉に衝撃を受けていた。
わが子を身籠った最愛の人を、欲望のままに抱きたくて、そんな浅ましい欲望で小夜を穢すことを何より恐れていた。
それなのに小夜を想う心のままに抱いていい、とジュリアは言う。
人も翼手も愛する者を求める心は同じ、ともジュリアは言う。
もうこれからは、腕の中で眠る愛しい人の可愛らしい寝顔を、張り裂けそうな想いで見つめる夜もなくなるもだろうか。
満ち足りた思いを抱かせて、優しい夢の中に小夜を導いてやれることが何より嬉しい。
今この場で小夜の唇を奪ってしまいたい衝動に駆られる。
ギュッと力が込められた手の感触を受け小夜を見ると、潤んだ瞳が自分を見つめていて、
ハジはそのまま抗えない己の感情に身を委ねた。
重ね合わされた唇。唇から伝わってくる、互いの想い。
― ハジ、愛してる。あなたがこんなにも愛しい。
― 一時たりとも貴女と離れていたくはない。狂おしいほどに愛しています、小夜。
舌を絡め取られた小夜は、同じようにハジに応える。
何度も何度も角度を変えて、ここがどこかなどと思考するのも厭わしいのか、ジュリアの存在さえ忘れ果て、二人は唇を貪りあった。
ジュリアは、目の前でとてつもなく熱い口づけを交わす二人をしばらく呆然と見ていたが、我に返ると。
「病室のベッドでよかったらお貸ししましょうか?」
二人には聞こえていないのは承知の上で呟くと、静かに部屋を出ていった。

どれほどの時間が流れたのか。

細い糸を引いて離れていく唇。気付けば、ジュリアの姿は部屋にはなかった。
二人に遠慮して、席をはずしてくれたようだ。今すぐにでもハジが欲しかったが、ココがジュリアの診療所だということを思い出す。
「ハジ、家に…帰りたい。」
と小さく囁いた。ハジもまた小夜と同じことを考えていたのか、応えは一言。
「そうですね。」



ハジと小夜の二人が気になって、応接室に戻るとそこにはもう二人の姿はなかった。
ただ、ガラス製のセンターテーブルの上に、残された一枚の置手紙。
―「ありがとうございます。貴女が、私たちの友人でいてくれたことが、本当に嬉しい。」
「…ったくもう。ほんとに、感謝しなさいよ。」
読み終えたジュリアは、クスッと笑ってそう言った。

今回の被害者は、寛大な心の持ち主のようだ。





後書き、という名のいいわけ

Happiness〜』のその後のつもりで書いたんですが、そうじゃなかったほうが良かったかも…。
小夜がやたらと幼くなってしまいました。。
でも、バカップルは、書いていて、とにかく楽しい!!
ただね…後で読み返してみて、叫びだしたいほどの羞恥に襲われるというのは、ここだけの話です。