最初にお見苦しい言い訳から。
勢いだけで書きました。またもただ甘いだけです!!
誤字脱字等がありましたら、お知らせくださいますと幸いです。


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小夜の食事の様子はいつ見ても気持ちがいい。
今も小さな可愛らしい口を大きく開けて、大きな肉の塊を放り込んで、もぐもぐと数度咀嚼したかと思うとすぐさまゴクンと音がしそうなほどの勢いで飲み込む。その瞬間の何とも言えない笑顔。
手間暇かけて小夜のためだけに用意した、テーブルを覆い尽くすほどの料理が、あっという間に小夜の細い体に収まっていく。
ハジにとって、至福の瞬間でもある。
のだが、今日に限って昼食もそこそこに小夜は席を立ちあがった。

「小夜。もうよろしいので…。もしかしてどこかお加減でも悪いのですか?」

ハジがこう問いかけたのには理由がある。とてもじゃないが、いつも小夜が平らげる量から比べると、今小夜のお腹の中に入った量は余りにも少なかったからだ。

「ううん、違うの。あのね、香里と約束してるの。夕方には帰ってくるから、心配しないでね。」
「あぁ、昨夜そのようなこと仰っていましたね。わかりました。気をつけて、小夜。カイや香里によろしく。」
「うん。あっ、残ったのあとで食べるから、冷蔵庫に入れておいてね。じゃ、行ってきます。」

小夜の好きな涼やかな薄桃色のチェック柄のチュニックに、白いクロップドパンツ姿の小夜は、まるでスキップでもするかのような軽い足取りで出かけて行った。
こんな会話も最近は堂に入ってきたものだ。四六時中一緒にいなくても、互いを信じ、想い、感じ、信頼し合えている。それはきっと、今日も彼女の左薬指に輝く指輪のおかげ。



それから数時間後。またも小夜のためにいそいそと夕食の支度をしていたハジは、一本の電話に料理の手をとめた。

「小夜。どうしたのですか?え、今からOMOROにですか?大丈夫ですよ。それではすぐに参りますから。少し待っていてください。」

急いでガスコンロの火を止め、ハジ専用の黒いエプロンを外す。高速移動を使えば、ものの数分、いやあっという間にOMOROに到着だ。そんなことを思いながら玄関のカギをかけた。
ハジがOMOROに到着したときには、小夜は店の前で大きな笹の枝を抱えて立っていた。

「ハジ!!ごめんね。夕飯の支度で忙しかったんじゃない?あっ、これね、自分で持って帰れると思ったんだけど、カイも香里もみんなして無理だってうるさいから、仕方なくハジ、呼んだの。」
「そうですね、あなたでしたら、きっとずるずると引き摺って帰ることになるでしょうから、家に着いたときには、葉っぱが一つも残ってはいないでしょうね。」
「あ、やっぱり!!それじゃあ意味ないからね、ハジ呼んで正解だったかも。それじゃあ、よろしくお願いします。」

何とも可愛らしい顔でお願いをされては、断れるはずなどない。そもそもハジは、小夜のお願いを断るという選択肢など持ち合わせていない。右肩に軽々と笹を担ぎあげると、空いた左手は当然のように小夜の右手と繋がった。

「そういえば、今日は七夕でしたね。今年も小夜はなにかお願いをするのですか?」
「うん。もちろん。」
「そうですか、小夜の願い事ならきっと叶いますよ。」
「そうかなぁ…。今年のお願いは、結構ハードルが高いんだけどなぁ。」
「一体、どんな願い事なんですか。」
「それはね、内緒。そうそう。香里とね、短冊や七夕飾りをたくさん作ったの。ハジの分もあるの。だからあとで一緒に飾ろうね。」
「はい、小夜。」

小夜が左手に持つ紙袋の中には、色鮮やかな短冊がこぼれそうなほど入っているのが見えた。
傍から見たら呆れかえるほどの甘い会話は、この二人の真骨頂だ。
まだ日の長いこの時分、道行く人の数は決して少なくない。この界隈でクールな美青年として名を馳せているハジではあったが、今やデレデレと崩れたその白皙の容貌は、道行く人々の視線を大いに集めていたが、すっかり二人の世界にどっぷり浸かっているバカップルには、そんな他人の関心などもはや他人事であった。



夕食時。またも小夜の気持ちいいまでの見事な食べっぷりに気を良くしていたハジだが、満腹中枢を刺激されたためか、舟を漕ぎつつある小夜をそっとゆすり起こした。

「小夜。笹の飾りつけはいいのですか?天の川に願い事を叶えてもらうのでしょう?」
「ん、んん…。あ、そうか…忘れてた。ありがとう、ハジ。」

そう言いながら、小夜は持ち帰った紙袋の中から、一枚、薄桃色をした短冊を取り出すと、ハジには見えないようにこそこそと自らの願い事を書き始めた。

「小夜。私に見られては困るお願いごとなのですか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど、なんだか恥ずかしくって…。だから後で一緒に見せ合いっこしようね」
「ええ、かまいませんが…。」
「はい。ハジも書いてね、お願いごと。あ、でもね。今年は『小夜の幸せ』っていうのは無しね。ちゃんとハジの幸せにつながることを書くこと!!わかった?」

二コリ笑って小夜が差し出したのは、ハジの瞳とよく似た薄青の和紙。
(そんなことを言っても、私の願い事などただ一つ。小夜の幸せだけですよ。)
しかし…ちゃんと自分自身のことを書いておかなければ、小夜をがっかりさせてしまうことだろう。
だが、そう思えば思うほど無限ループにはまり込んでしまうものだ。
ぐるぐると回り続ける思考の輪を何とか自力で脱出したハジは、まるで生まれつき日本人であるかのような流れる手つきで願い事を書きあげていく。その筆跡さえ、著名な書道家を思わせるほど流麗だ。

小夜は、とっくに一枚目の短冊に願い事を書き終えていて、2枚目に差し掛かっているところだった。今度もまた懸命にハジの目からひた隠しに隠している。
あとで見せ合うのだから、何も隠さなくとも…とは思うが、こんなところが小夜の愛らしさに拍車をかけているとハジはいつも思う。
時には幼子のように純粋無垢で、時には翼手の女王として気品と威厳に満ち、時にはまるで小悪魔のようにハジを翻弄する。そして閨での小夜は…。
ハジに小夜の魅力を語らせたら、時間などいくらあっても足りない。だから敢えてここでは語らせはしない。

「ハジ、書き終わったんだ。ちょっと待ってね、もう少しで私も終わる、から。ん…和紙ってなんでこんなに書きにくいんだろうね。やだ、また変な字になっちゃったよ。こんな字で、織姫様たち、ちゃんと読めるのかな?」

今日の小夜は、かわいいモード全開だ。
(天の川などに頼らずとも、あなたの願いなら私が叶えてあげます。)
心の中でハジが盛大に誓っていることなど、小夜はつゆ知らず。

「で、できた!!じゃあ、ハジ。せいの~で、見せ合いっこだよ。いい?はい。いっせいの~で。」

互いの目がそれぞれの短冊に注がれていく。

― 小夜のウェディングドレス姿が見たい。ハジ。
― お料理ができるようになりたい。小夜。

「小夜。この料理ができるように…とは。」
「うん、だってね。たとえば、ハジのお嫁さんになりたいとか、そういうお願いだったら織姫様にお願いしなくてもちゃんとハジが叶えてくれるでしょ。」
「ええ、小夜…。」
「だったらハジにも無理そうなことをお願いしようと思ったの。私って、恥ずかしいくらい不器用なんだもん。毎日の料理は無理でも、せめてバレンタインくらいはハジにお手製のチョコを渡したいなって…。それにね、七夕って昔はお裁縫とかの上達をお願いしたんだって、香里が教えてくれたの。」
「小夜。」
「織姫様たち、きっと叶えてくれるよね。もちろんそのための努力は惜しまないつもり。来年のバレンタインは期待しててね、ハジ。」
「ええ。きっと叶えてくださいますとも。」

二人、どちらともなく体を寄せ合い抱きしめあって。
そう、天上の恋人たち ― 甘い新婚生活が楽しすぎて天帝の怒りを買ったお二人さんにはとても申し訳ないが、それは甘い甘い時間の始まりとなりました。

一年に一度しか会うことも叶わない織姫と彦星は、こんなアツアツぶりを見せつけられてしまっては面白くはないだろう。逆に大いに妬みを買ってしまうだろうから、願いを叶えてもらえるかどうかはさておき。
ひとしきり甘い時間を堪能した後。

「はい、ハジ。ハジのお願い、ぜひ叶えてね。」

そう言って差し出したのは小夜が書いたもう一枚の短冊。そこには。

― ハジの隣で、白いドレスが着たいな。小夜。

瞬間。白いドレスに身を包み、花もほころぶような笑顔の小夜が、ハジの脳裏に浮かんだ。実現する日も近いことだろう。