不器用なバレンタイン


バレンタインデイを1週間後に控えた土曜のデパート。
きれいに着飾った大勢の女性たちが犇めき合う、特設されたチョコレート売り場。
少し離れた場所で小夜は茫然と、喧騒に満ちたデパートの店内を見つめていた。



今年のバレンタインこそは、愛する人には手作りチョコをプレゼントしたいと思っていた。

― ハイ、これ。ハジのために頑張って作ったの。もらってくれる?

想いを通わせ合う二人には新たな告白など必要はないが、やっぱり可愛いいと思ってもらいたいし、喜んでもらいたい。そのためには手作りというアイテムは必要不可欠だと小夜は思う。
しかし小夜は自他ともに認める不器用者。とてもじゃないが手作りなど無縁の存在だった。
でも…ハジのために。その一心が小夜の心に火をつけた。

そこで年が明けて早々、兄に相談をした。ところが、兄から返ってきた言葉に小夜は愕然とした。
『あいつにやるチョコの手伝いなんか、誰がするか!!』
いつもはハジと肩を並べるほど小夜に甘く優しい兄のことだから、二つ返事でOKしてくれるものと思い込んでいた。
もちろんカイが問答無用で断ったのには理由があった。
『バレンタインのチョコって、やっぱりホントに好きな人にだけあげるものだって思うの。だから今年からは義理チョコなんて用意しないんだ。』
たとえ義理チョコであっても可愛い妹からのチョコを心ひそかに楽しみにしていた兄としては、妹のその発言には大打撃を受けた。
心穏やかならぬ兄なのに、その兄に追い打ちをかけるかのような小夜の発言は傷口に塩を塗られたようにひどくカイを苛んだ。
『ハジにあげるための手作りチョコの手伝いをしてほしい。』
カイにとってみれば、いくらなんでもそれはあんまりというもので。
『お前はもう少し人の気持ちってもん、考えた方がいいぞ。』
そう諭してやるべきとは思ってみても、下手をすればチョコがもらえない腹いせに取られかねないような気がしてそれすらもできない。兄の心こそ繊細だ。
そんな兄の気持ちなどどこ吹く風の小夜は、充てにしていた兄の手助けを得られないことで真剣に悩んでいたが、ひとしきり悩んだ後、もはや独力で何とかするしかないだろうと心を決めた。

それからというもの、書店に足しげく通い、「簡単なお菓子作り」という名の本を買い込んだりして、何とか自力で手作りチョコを、と勢い込んだ。ハジの留守を狙って練習を重ねてみたものの、なにせ小夜は生来の不器用者。その上食べ物に関するスキルはすべて、食べることに注がれているという有様だ。

ー ちょ、ちょっとこの本のどこが簡単なのよ。うっ、手作りなんて…やっぱり私には無理なのかな?一年に一度のバレンタインに、手作りチョコさえ作れない女の子って…。もし、嫌われたりしたら…私生きていけないのに…。

そんな心配無用!! 今の小夜にそれを教えてあげたとして、それを聞き入れる心の余裕は残ってなさそうだ。

2月のその日が近づくたびに、小夜はますます落ち込んでいった。
あれからも幾度も試しに作ってみた。が、チョコを溶かすのに失敗して焦がしたり、それがうまくいったかと思えば今度はきれいな形にならなくて歪なものばかり。挙句の果て、味見と称してなんとか及第点に仕上がったチョコを食べてしまったり…。まったくもって踏んだり蹴ったりだ。
そして、もうすぐ月が変わるというところで、小夜は漸く諦めを付けた。

ー ハジは手作りじゃなくても、きっと私が上げたものなら何でも喜んでくれる。
(そうだ、小夜。その通りだ。やっと気がついたか。筆者、ホッと一安心だ。)

小夜の切り替えは早かった。今度はバレンタインチョコを特集にした雑誌を求めて書店に走った。店員に睨まれながら立ち読みに耽り、そしてこれならばという品を見つけ出した。
素早く、そのチョコの商品名と扱っている店名をすばやく携帯電話に控えた。あとは買いに行くだけ、のはず。



そしてやってきた2月7日土曜日。開店から少し遅れてデパート店内に足を踏み入れたところまでは良かったが、件の売り場までたどり着いて、そこに犇めき合う女性たちの勢いを目の当たりにして、小夜はすっかり怖気づいてしまった。
しかし、せっかくここまで来てこの迫力に気圧されてすごすごと帰ってしまったとあっては何のために出かけてきたのかわからない。竦みそうになる足に意識的に力を入れて一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。目的のチョコのコーナーはすぐに見つかった。



あとがきという名の言い訳

まだ前半なんですが、自分にプレッシャーをかける意味でup。ちょうど今日は1週間前だし…。後半は14日にちゃんとupできる…かなっと。
前作以来ずっとまともに書いてなかったんで、リハビリを兼ねてということで、お手柔らかに。


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