Cool Down 【2】
自分の上に押しかかるハジの身体の重みが、今この瞬間(とき)が現実のものと小夜に知らせてくれる唯一だ。ハジは小夜の着衣を一枚一枚と剥ぐたびに一つ一つと口付けを贈った。そうしてゆっくりとその姿態を楽しむかのように服を剥がしてゆく。
だが、ハジが剥してゆくのは服ばかりではなく…。小夜はその理性までもハジによって剥ぎ取られ、後に残るのはハジを求める純粋な欲望のみが残るだけで。
最後の着衣が小夜の身体から離れると、二人は僅かな隙間もないほどきつく抱き合い、激しい口付けを交わし合った。ベッドの上で上になり下になり互いの身体を入れ替え、貪るように噛みつくように互いの咥内を味わい尽くし、やがて細い銀の糸を引いて唇は離れてゆく。赤く濡れた唇はそれだけで男を誘うに十分な威力を持っていることを小夜は知らない。
小夜が極度に恥ずかしがるため、部屋の明かりはほぼ真っ暗に近いほど照明を落としている。けれど夜目の利くハジには何の支障もなかった。小夜とて人間と比較すれば格段に夜目は利くのだが…本人にその自覚はない。
闇の中にほの白く浮かび上がる裸身。仰向けに横たわったためか、腹部のふくらみはほとんど目立たない。とてもその体内に子を宿しているとは思えないほど細く美しい身体のラインはまさにため息ものだ。
ハジの熱い視線を感じたのか、小夜は僅かに残った理性を頼りに、咄嗟に手近なシーツを手繰り寄せたかと思うとその身を覆い隠してしまった。そんな仕草さえ艶めいていて、思わずハジは感嘆の息を吐いた。
こうして小夜の裸身を眺めること自体、本当に久しぶりのことなのだが、ここで欲望のまま性急に小夜を求めてしまわないハジは流石である。ハジのすべては小夜のため。
その想いはこんな時でさえも有効なのだ。
やや強引にシーツを跳ね除け、再び露わになった双丘に手を乗せると、以前小夜と愛し合った夜の記憶と感覚が瞬時に蘇った。
同時に理性と欲望との熾烈な戦いの火蓋が切って落とされ、戦いのゴングがハジの脳裏に谺した。
先ほど服の上から触れた小夜の胸を、今度は直接触れる。その変らぬ柔らかさに目が眩みそうになる。
「あ、っんん〜。」
甘さを含んだ小夜の声が闇の中に響く。
浅い谷間に指を滑らせ小夜の反応を見ると、小夜は瞳を閉じていてハジの愛撫にすっかり身を委ねているようだ。それならば…と、ハジは次なる愛撫へと手を進める。
硬くしこり始めた胸の先端のつぼみを指で軽く転がすと、小夜はより一層甘い声で応えた。
その反応が嬉しくて、ハジは少しだけ指先に力を入れて摘み上げ、口に含む。
「んんっ、あっ、あっ、あぁ〜ん。」
舌先で突き、転がし、唇に挟み、歯を立ててかじり、きつく吸い上げ、形が変わるほど揉みしだく。
思いつく限りの愛撫で胸を味わった頃ようやくハジは顔を上げた。
もう小夜の声には泣きが加わっていて、潤んだ瞳がハジをじっと見つめていた。
ハジは、柔らかな肌の至る所に咲かせた赤い花が、次第に色を失くし消えてゆく様を満足げに眺めながら、小夜の胸の外側から腰骨にかけてのラインに舌をスーッと這わせた。そこは小夜の泣き所。
初めは右側から、たっぷりと舌に唾液を乗せ、ゆっくりと擽るように…。そして同じように左側にも。何度も何度も往復する悪戯な舌の動きに翻弄され、小夜は身も世もなく善がり啼いた。口から発せられる音はもはや意味を成してはいなかった。
「ね、ねぇ、ハジっ…。もう…ダメ。お願い…。」
息も絶え絶えなその言葉に満足したのか、ハジは小夜に優しい口付けを贈る。
「小夜、お願いとはなんです?ちゃんと言ってくださらないと、わかりませんよ。」
小夜は思う。どうしてこんな時に限って、ハジは意地悪なのだろうか…と。そんなこと言えるわけないじゃない。…でもよくよく考えてみれば今夜は、もとはと言えば自分のほうから求めたわけで…。今更恥ずかしがるのもおかしな話。それに…もうほんとにすぐにでも…なくらいハジを欲しているのも事実。
「んっ、ハジと、一つに…なりたいの。思いっきり愛されて…、ハジが私のもので、私がハジのものだって、もう一度…確かめたいの。…ねぇ、ハジ。ダメかな?」
小夜は無意識の小悪魔、それも天性だと、ハジはいつも思う。
小夜は男の心理というものに恐ろしく疎い。なのに…あまりにも容易く男の理性を吹き飛ばす。それは、おそらく始祖の特性によるもので。女王の要求にシュバリエが拒めるはずもない。いや、そもそも女王様のお願いがお願いだけに拒む気も理由も、存在するわけないのだ。
―だいたい、そんな可愛らしいお願いをされて拒絶できる男などこの世に存在しませんよ、小夜。
ハジの理性は、それは見事なまでに木っ端微塵に吹き飛んだ。欲望が高らかに勝利を宣言した瞬間だ。
「それがあなたの望みなら…。私の全力であなたを愛して差し上げます。」
そのハジの言葉を聞いた小夜の背を、凄まじい悪寒が駆け抜けたのは、経験による自然な反応だ。とっさに身体が逃げの体制を取った。これも本能による防御反応。だが、あっさりハジの長い腕に捕らえられ抱き寄せられてしまう。
―小夜、今夜は覚悟していてくださいね。そんなお願いをしたあなたがいけないんですよ。苦情など受け付けませんからね。
その台詞は、言わずにおいた。全くもってズルいハジである。
異常なほどに気色ばみ、瞳を赤く血の色に染め変えて、妖しく微笑むハジを目の当たりにした小夜は、自分の吐いた台詞を思い返し、猛烈に後悔し始めていた。
もう誰もハジを止められはしない。
またも出来たところまで、upです。
不倫中の友人の惚気話を聞いたせいで、創作意欲がメキメキと…。
もう勢いのなせる業です。書きかけをあっさりと切り捨てて、新たに書き直しました。
これがすみれ的に一番しっくりいくバカップルな二人です。
でもこのまま書き進めていくと、どうしてもハジの変態化は避けようがありません ^^;。
ハジに理想を描いてる方には前もってお詫びしておきます。
ホントにごめんなさい〜。ド変態ハジでも、赦して下さい。
え、いや、赦せないって言われても、このまま突き進むしかできませんけど…。
えっと次回で終わります。でもね、最後にものすごいオチが二人を待ち構えてます。
もしかして、もうそのオチ分かっちゃった人って、いるのかな?
2008.11.19