寄せては返す波のように
絶えることなく君に幸あれ



第1話


狭い塗籠の中でピチャピチャと卑猥な水音が響く。
闇の中にほの白く光る白く浮かび上がるのは、女というにはまだ早い少女の裸体。
両の手は頭上で痛々しく縛りあげられていているというのに、身じろぎひとつしない。
どうやら薬か術で眠らされているようだ。
怪しく光る瞳をした男の白い手によって、少女の白く細い脚は大きく淫らに広げられ、その間に顔を埋め少女の花芯から溢れる蜜を舐める男。
やがて男はただ舐めることに飽きたのか、自身の一番長い指を少女の中に突き入れた。
そこは既に粗相をしたかのように蜜に濡れ、男の愛撫に確かな反応を示していることが分かる。
男はいったん己の指を少女の中から引き出すと、蜜の纏わりついた指を、舌を長く出して舐めまわした。
「甘い…。」
そう呟いた男の口の端がいやな角度に上がる。
自分の唾液のついた指を再び少女の中心に向かって突き入れた、今度は激しく勢いをつけて、何度も何度も。
女の扱いには慣れた男だ。女を悦ばせることなど造作もないこと。
現に先ほどまで何の反応も示さなかった少女だが、その眉は悩ましげな形に変わりつつある。
やがて「んんっ」と短く声が上がる頃には、少女の花芯は厭らしいほどの蜜に濡れ、てらてらと光りだす。
そこで男は中に入れる指をいきなり三本に増やし注挿を始めると、眼前にあるぷっくりと可哀そうなほどに膨らんだ少女の陰芽を強く吸い上げた。
「あ、あんっ。頼久さん…。」
少女が甘ったるい声を上げ、うっすらと目を開けた。
少女は夢の中で愛する男の愛撫を受けていた。愛する人を抱きしめたくなって、腕を動かす。
しかし…頭上に縛りあげられ自由の利かない両の手。なぜか力の入らない身体。
少女は次第に意識を取り戻し。目に映るのは見知らぬ狭い部屋と見覚えのない調度。
そして…一糸纏わぬ姿の自分。大きく広げられた両脚。その間で蠢く男の頭。その髪は見慣れた蒼く艶めく黒髪ではない。
それが愛する男ではないと、認識した刹那、少女の顔に拒絶の色がはっきりと浮かぶ。
「やっ、いやっ。やめてぇ。お願い!!やめてぇぇぇ!!」
少女の悲鳴が、閉ざされた空間にむなしく響く。
「ようやくお目覚めかな、神子殿。これからは私が君をかわいがってあげるよ。フフフ、楽しみにしておいで。」
乾いた髪を振り乱し拒絶する少女の頭を押さえつけ、尚も悲鳴を上げる少女の口を塞ぎ、強引に舌をねじ込む。
そして…硬く猛り狂った男の欲望の塊で、少女を貫く。
愛する男を夜毎受け入れてきた身体だ。どれほど拒絶しようとも、あまりにもあっけなく最奥まで穿たれてしまう。
その夜一晩中、少女の絶叫と嗚咽が止むことはなかった。

男は、地の白虎。左近衛府少将、橘友雅。

これ以上の最悪な目覚めなど、少女は知らない。

少女を救うべき天の青龍は、今、生死の境を彷徨い歩いていた。


********************************************


ただ、男はただその少女が欲しかったのだ。
どれほど多くの人が自分を賛美し見惚れようとも、どれ程の羨望の眼差しを受けようとも、男はただ一人の少女に自分を受け入れてほしかったのだ。
望みは、ただそれだけだった。
優雅すぎるほどの微笑を湛え、甘言を耳元に吹き込めばどんな女人も落ちる、それは経験からくる自信。
男は実際、己の美貌を武器として世を渡っていたようなものだから、この美しさの前に抗う者などないのだと知りすぎていた。
だがそんな彼にも予想外のことが起きた。
確信にも似た自惚れこそが彼のただ一つの落ち度だったに違いない。
なぜなら男が虜になった少女は異世界からやってきた
斎姫(いつきのひめ)、月よりの使者。
男の持つ常識も自信も経験も、今まで培ってきたことの総てが、少女の前では何の意味ももたなかったのだ。
それはまさに砂の城のようなもの。

少女は戦いのさなか、一人青年と心を通わせた。
その青年は、友雅とは正反対の雅事とは縁遠い、ただただ実直で寡黙な武士だった。
その時友雅は、狂わんばかりの衝撃をその心に受けた。
「なぜ、私ではないのか?」
諦めることなど到底できようはずなどなかった。
友雅にとって少女は、忘れていた情熱を呼び起こしてくれたただ一人の女人。
いつの間にかその情熱の、身を焦がすほどの熱さを、快いと思えるようにまでなっていたというのだから。
「なぜ、私ではないのか?」
その疑問は、いつしか男の心にほんの小さな一点の染みを落した。やがてその染みは心の内を漆黒に染め変えてゆき、心の奥深くに根差し巣食い始めた。
ついには男は凄まじいまでの妄執を身に纏うようになった。
もともと執着などなかった帝の覚えめでたき高貴な身分さえもただ煩わしいだけのものとなり、八葉としての誇りも、何もかもがどうでもよくなっていた。
望むものはただ一つ。忘れていた情熱を呼び起こした張本人。
龍神の神子ただ一人。
「どんなことをしても、君を手に入れて見せるよ。そう、どんなことをしてでもね。待っていておいで、神子殿。」

このあと、男の歪んだこの執念が一人の少女の運命を狂わすとは、当の本人はおろか、まだ誰一人として知る者はなかった。




Designed by NEO HIMEISM